アノオト

2014.05.15

プロデューサーズ:vol.1 「予想外」を作り続ける。松隈ケンタ

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昨今増えつつある「レコード会社に所属しない」音楽プロデューサーたち。アノオトでは彼らを「独立系」音楽プロデューサーと呼び、注目しています。この連載では彼らがいかにして音楽と関わり、生み出しているのかを追っていきます。前回は「独立系」とは何かを考える「vol.0」として、自らも音楽プロデュースを職業としている2人、アノオト編集委員の早川大地と、津倉悠槙さんの対談をお届けしました。

vol.1となる今回の取材先は、アイドルグループ「BiS」のプロデュース、中川翔子柴咲コウへの楽曲提供でも知られる松隈ケンタさん。音楽制作チーム「SCRAMBLES」を率い、インディレーベル「スクランブルレコーズ」を発足させてアーティストを発掘するなど、精力的な活躍を見せています。その音楽制作の環境や考え方は、まさに「独立系」音楽プロデューサーの定義を考える上での、良きモデルケースと言えそうです。

松隈さんの、プロデューサーとしての仕事の実態や考え方はどのようなものなのか。そして、「独立系」とは何か。松隈さんの言葉から考えてみたいと思います。松隈さんへのインタビューは以下より。

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■スピードを上げることでクオリティが上がる

SCRAMBLESは、ドラム、シンセサイザー、ベース、ギター、作曲と各パートを得意とする人物を集めた音楽制作チームです。作り方はさまざまで…、例えば、僕が編曲までして、仮に打ち込みをしたデータを「明日までに欲しい」と言って、シンセサイザー担当に渡す。それで、ちゃんと弾いたやつをデータで返してもらって、僕がまとめていくんです。

各パートの担当は都内に散らばっていて、それぞれの自宅で録音します。インターネットの回線も速いし、機材も進歩してきたから、わざわざスタジオに来なくてもいいんですよね。最近は『Skype』や『FaceTime』を使って、「このコードをここの小節に入れて」と、ビデオチャットで僕がギターを弾いて見せることもあります。このやり方ならメンバーのスケジュールを揃える必要もないですから、調整を含めて何週間もかかる製作のペースを、2~3日のやりとりに短縮できるんですよ。

クオリティは当然高くなければいけないのですが、この「スピード感」はかなりテーマにしていますね。制作費の予算も年々下がってきているけれど「来週までにビシッとやって!」とオーダーがくる。そうすると、スピードを上げるしかない。むしろスピードを上げることで逆にクオリティは上がるのかなって。この間は、4日間で16曲の歌撮りをしないといけなくて、しかもメンバーが6人いるっていう某アイドルの仕事。「絶対無理やろ!」って思いながらも、やりきりました(笑)。

■「良くないところ」に着目して、アーティストの個性を引き出す

プロデューサーとしての僕のテーマは、結構変わっているかもしれない。普通はアーティストの「良いところを生かそう」としますよね。でも僕は「良いところを生かさない」のがテーマ。良くないところを直すこともあれば、そのままもっと出させることもあります。良くないと思って萎縮しているから、良くないんですよ。

例えば、「自分の裏声は良くない」って思ってるボーカルの子がきて、周りも「高いキーの歌はやめましょう」なんて空気感でくるんで、僕は「じゃあ全部裏声の曲を作りましょうよ」みたいに提案したりね。それを1曲作って、あとは裏声のない曲を作ったら、もしかしたら裏声だけの曲の方がパワーが出たり良さが生きたりするかもしれない。あえて、こちらも傷を負いかねないような勢いで、相手の苦手な部分へ踏み込んで引っ張り出す、「肉を切らせて骨を断つ」ような感じ。でも、それこそ「個性」ですよね。苦手なことをなんとかやらせてみたり、気持ちを乗せてその人が気づいていない「個性」を引き出すのも、プロデューサーとしての仕事の1つかなと思うんです。

僕は2005年にロックバンド「Buzz72+」でデビューしました。そのときに、サウンドプロデューサーとしてCHOKKAKUさんに入ってもらえたんです。CHOKKAKUさんのプロデュースを間近で見せてもらってて、体感していたのがすごく生きてますね。何を言ってもらえたらやりやすくて、心強いのか。アーティスト側の気持ちも、そのときにわかりました。

なぜそんなことをするのかって言ったら、やっぱり予想外のものを作りたいからなんですよ。プロデュースするときに「ここに持って行こう」みたいな感じにしない。「想像通りのものを作るのはつまらない」っていうのは、CHOKKAKUさんも言われていたことです。やるなら、振り切る。BiSの仕事をもらったときにも、アイドルソングを歌わせて、いわゆる「アイドル」にしたいとは思わなかったんですよ。BiSで最初にやったのは、彼女たちができるレベルに合わせず、容赦なく、めちゃくちゃ速くて難しい曲を歌わせること。その「アップアップ感」が個性になったり、エモい感じになったりするんです。

今は、曲を聞いてくれる方も、ジャンルは気にせず、「個性」で聞いているのかなと思いますよ。プロデューサーの個性、レーベルの個性、アーティストの個性…。音からはみ出てくる、作っている人や演奏している人たちの思いだったり、ドラマだったりを欲しがっているのかなと思いますね。僕は一回バンドで失敗しているという「ドラマ」を持っているわけですが、ポッと出てきて始めた人と比べてみたら、曲の聞こえ方も違ってくるじゃないですか。だから僕はそこは包み隠さず出しているんです。そこも作曲家の個性だと思う。

 

■カッコイイことをやりたいメジャーとなら、どんどん組みたい

現時点での1つの目標としては、スクランブルレコーズでデビューしたバンドが、メジャーに拾ってもらえること。ただ、最終の目標ではないですね。メジャーは売る力が強いし、予算もいっぱい持っている。そういう点でメジャーの良さはある。でも、あまり、どちらに優劣があるという思いはないですね。それよりも、いかにたくさんの人に聞いてもらえるかと、アーティストにとってどちらが合うのかを考えますね。

やっぱり何より大事なのは「曲を聞いてもらう」ことですよ。聞いてもらえないのはクリエイターにとっていちばん辛い。作曲家なんて、年間に200、300と曲を作っても、コンペで選ばれないと1円にもならないし、発売もされない。僕もバンドや作曲で同じような辛さを味わってきた。だから、とにかく聞いてもらえるようにする。BiSが全裸で走るPVを作ったり、ゴキブリの衣装を着たり(PVはこちら)するのも、聞いてくれさえすればいいんだっていう気持ちがあって、彼女たちもそういう気でやってるから。スクランブルレコーズなら、The INTEGRAL POULTRYに紙袋をかぶらせたりJOVO仮面つけさせたり…今はとにかく何かつけろ、と(笑)。

それに、最近はメジャーの側も「そんなに売れないなら、どうせだったらカッコイイことやろうよ」っていう空気がある。予算の縛りはあると思うんですが、そういう思いがある人と組んでやれれば、インディーズの規模よりは絶対に大きなことができる。そういうレーベルやディレクターと組めれば、どんどんメジャーにいきたいですよね。それに、ダサいことやって本当に売れなかったら超ダサいじゃないですか。

あと、考えているのは、「CDがなくなる時代がくる」ということ。それがすぐなのか、もうちょっと先なのかはわからないですけど。そうなると、メジャーかインディーズかっていう話は、もうどうでもよくなってくる。昔はレーベルに頼れて、レコード会社に入れたらそれで食ってはいけた。でも、今はそれすらなくなりつつある。他人任せで食っていけなくなる可能性が高まっている。だから楽曲の配信だったり、自社でイベントをやったりできる、自分のレーベルを作ったんですよ。

■プロデューサーに必要なのは「自分の芯」と「柔軟性」

僕を慕って、将来プロデューサーを目指してくれる子たち全員に向けて、アドバイスを言うとすれば、「自分の芯」になるものは持っておいてくれ、ですかね。そのうえで「柔軟性」も必要かな。僕はロックが好きで、ロックスターになりたいと思って東京に来ました。自分のバンドではスターになれなかったけど、何かロックスターになる方法はないかなって探したんです。僕が作曲家になったとき、ちょうど世間は着うたブーム。みんなロックなんて聞いてなくて、心が折れそうになりながら、でも「作曲家として食っていくなら何でも作れないと」という思いで、EDMから、アコギばかりの曲もかたっぱしからやりました。それが2年くらい続いたのかな。

いろんなタイプの曲を勉強した後で、柴咲コウさんの曲を書かせていただいたときに、本当に珍しく「ロックでお願いします、作家の好きに作ってください」っていうオーダーがきて。それで作ったのが『ラバソー ~lover soul~』。久しぶりにエレキギターを持ちだして、好きにガーッと作ったら、運良く僕の作った曲に決まった。そこで周りにも「松隈はロックが得意だ」って思ってもらえて、そこからロックに突っ切れた。ロックスターになりたい人は、普通はアイドルのプロデュースなんてしないんですけど(笑)、僕はそれをしたことによって、ロックにこだわることができている。だから今も、作曲家になったとか裏方に回ったって感覚は、あんまり持っていないですね。自分がバンドでしたかったこと、やりたかったことをそのままやれてるんで。

あとはやっぱり吸収して、アウトプットしていかないといけない。今でもタワレコで試聴機をずっと聞いたり、街を歩いていて流れてくる曲を『Shazam』で調べて聞いたり、『ロンドンハーツ』とか、流行ってるテレビを録画して見たり、ちょっと前までは音楽学校の講師をしたりと、若い人との接点を作って、使われる音楽やフレーズを曲作りや作詞のヒントにしています。若いころは流行っている音楽に反骨的なものですけど、年を取れば取るほど、それをだんだん意識的にやるようになりますね。

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いかに速く、強く、賢く戦うか。松隈さんのお話からは、「独立系」プロデューサーたちが抱えるであろう課題が浮かび上がりました。一方で、楽曲制作の環境がより安価に、均質化されていくほどに、プロデューサーの「個性」や「方法論」が際立ってくるという希望も見えたと感じます。これからも松隈さんのロックサウンドは稲妻のようなまぶしさで、アーティストたちに新たな道を開くことでしょう。

<松隈さんの最新作紹介>
THE INTEGRAL POULTRY / WILD RIOT

BiSのプロデューサー松隈ケンタが手がける初の本格ラウド・ロック・バンド、THE INTEGRAL POULTRYのデビュー・アルバム。2013年4月の結成以降、ライヴ毎に無料配布してきた全40曲の中から、ライヴで人気のある選りすぐり楽曲を新たにレコーディング。ベスト・アルバム的な究極のデビュー盤。12曲入¥2,160。

この記事をかいた人: 長谷川賢人

編集者、ライター。中学生でネットラジオを配信、高校生は放送部に所属、大学生でピュアオーディオに足を踏み入れ、社会人になって声優に熱を上げるなど、「音」まわりはずっと好きなこと。現在、ウェブメディアで働く傍ら、個人ブログ「wlifer」も運営中。