アノオト

2014.04.21

プロデューサーズ:vol.0「独立系音楽プロデューサー」の姿とは

「プロデューサー」と聞いて、あなたは、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか?

一般に「プロデューサー」と呼ばれる職種は、業界毎に、仕事内容も、想起されるイメージも、まったくと言っていいほど異なります。プロデューサーと聞いても「おぼろげにしかイメージが沸かない人」のほうが、もしかしたら多数派かもしれません。いわゆるプロデューサーのイメージをクッキリと描くための概論としては、経済産業省が平成15年に策定した「コンテンツプロデューサー育成カリキュラム」の「プロデューサー論」にまとめられた文章(Chapter 1 プロデューサーとは)が参考になると思われます。

音ライフメディアのアノオトでは、プロデューサーのなかでも、音楽プロデューサーに焦点を当てていこうと考えています。その理由は、音楽プロデューサーが、曲やアルバムといった作品のなかで担う役割や、仕事のスタイルが、従来とは大きく異なる、新しい音楽プロデューサーが登場しているからです。それは、レコード会社に所属しない、いわば「独立系」の音楽プロデューサー。

今回はその前段として、音楽プロデューサーとは、そして、新しい音楽プロデューサーとはなにかを、自ら音楽プロデュースを職業としている2人、アノオト編集委員の早川大地と、津倉悠槙さんに伺ってきました。

■いままでの、音楽プロデューサーとは?

早川:「プロデューサー」というのは、映画のプロデューサーなんかと一緒で、本来は、コンテンツを金銭マネージメントも成立させる人だと思うんです。でも、現状、この言葉は「サウンド・プロデューサー」とも、つまり作曲をする人まで、プロデューサーと言っちゃったりしますよね。ただ、僕個人としては、どちらもプロデューサーでいいんじゃないかと思っています。一つのコンテンツに対して、役割に応じたプロデューサーがたくさんいてもいいのではと。

津倉:プロデューサーの”正しい定義”というのは存在しないと思うのですが、極端な言葉で言えば「投資家」の一種と言えるのではないか、と。何らかの基準に則り、投資する対象(アーティストや作品)を決め、資金や労働を提供し、その対価として収益(これには金銭的収益以外、満足度なども含まれるかもしれませんが)を受け取る職業、それがすなわちプロデューサーだと考えています。

日本では、これまで「サウンド・プロデューサー」が音楽プロデューサーとして認知されてきました。小室哲哉氏や、つんく♂氏のように、新しい音を創り上げるプロデューサーたちです。しかし、その裏には必ずその資金を提供し、広告・宣伝を行い、ヒットに結びつけるビジネスのプロデューサーたちが存在しました。

「音楽プロデューサー」という言葉は、「サウンド・プロデューサー」と「投資家」、両方を指す言葉として日本では機能しているように思います。

 

■新しい「独立系プロデューサー」とは?

早川:独立系の音楽プロデューサーが現れている背景は、独立せざるを得なくなったというか、レコード会社の予算の影響もあるのかな? と思います。

津倉:その影響もあるでしょうね。従来の音楽プロデューサーとの端的な違いは、「自らのリスク」を取っているか、つまり、身銭を切っているか、ということでしょうか。会社や組織に所属をしている方は、毎月のお給料が保証されている場合が多いでしょう。また、宣伝・販促等も「会社の予算」でできてしまう。独立系はよっぽどお金の自由がない限りはそこまではできません。ただ、そのリスクをプロデューサー自らが背負うことで、アーティストと人生の一部を分かち合っている、という感覚が強いと思います。

最近、そのような独立系プロデューサーが多くなって来たな、と感じるのは

1) レコーディングにかかる費用の減少
2) プロモーションメディアの無料化
3) 音楽業界の斜陽化

の3要因からだと思っています。つまり、発達したテクノロジーが作品の創造とプロモーションを容易にし、同時に、音楽ビジネスが縮小して行く中で、ダウンサイジングの必要性がでてきた。その均衡点として「独立系プロデューサー」という「関わり方」が、以前より現実味を帯びて来たのかなぁ、と。

早川:そうですね。まずはアーティストが先にあって、レコード会社に属さずに、インディーズでやった方がいいとか、インディーズでやりたいというアーティストが増えてきて、それをサポートするため、必然的に生まれてきたものだと思います。アイドル業界では「運営」とか呼ばれる人々なんかも、そうなんだと思います。

津倉:ただ、独立系プロデューサーが現れているのと並行して、「業界」はまだ存在しているので、過去に何かを売った経験がある人、もしくは何かを失敗した経験のある人、の方が、経験値およびネットワークの点では有利かもしれません。

僕は元はメジャーレコード会社で洋楽・邦楽を売ってきました。で、しばらく音楽業界からは離れていて。「蟲ふるう夜に」に出会ったのも偶然だったんだけど、何かを感じて、アドバイスしていくうちに、メンバーが「一緒にやりたい」と言ってくれて。

実は、メジャーの時に、お給料が保証されている自分が、「契約切られたら次の日からバイト」状態のアーティストと対等なのか、ものすごく疑問があって。もちろん、アーティストはハイリスク・ハイリターンな人生を自分で選んだ、と言えばそれまでなんですが。だから、自分が「蟲ふるう夜に」を抱えるかどうかもすごく悩みました。彼らの人生の一部分に責任を負うわけですから。

早川:先ほど話に出ていた「自らのリスク」を取るかどうか、という判断ですよね。

津倉:身銭を切るって決めた瞬間に、その辺りのジレンマは、自分の中では解消されて。個人で全てやっているので、負担は大きいですが、得るものも大きい。冒頭に述べた「アーティストと人生の一部を分かち合っているという感覚」は何物にも代え難いです。今年の課題は、それを金銭的にも成立させることですね(笑)。

■他の独立系プロデューサーたちへ、聞きたいことは?

早川:こうやって、僕らのように、地道に音楽を作り続けている、サポートし続けている人たちがいるんだ、ということを知ってほしいし、知りたいですね。あと自分的には、一人じゃないんだ的な(笑)。

津倉:他の独立系プロデューサーの方々がどういう想いでやっているのか。また、苦しい時期をどう捉えているのか、知りたいですね。早川さんと同じように「一人じゃないんだ」感は欲しいかも(笑)。斜陽産業と言われている音楽界に「独立系」として関わっているからには、どこかしら「音楽バカ」のはずなんで(笑)。そんな人たちに、この連載を通じて、たくさん出会いたいですね。

Photo by Ethan Hickerson

[interviewee]

・津倉悠槙
合同会社ノンターミナス CEO/Founder
大学卒業後、レコード会社エイベックスにて販売戦略の立案/遂行を担当。ブリトニー・スピアーズのデビューやバックストリート・ボーイズの日本市場での成功に寄与。邦楽ではサスケ、ジャンヌ・ダルク、タッキー&翼などを担当。2005年にインターネット通販のアマゾンへ転職し、CD/DVDビジネスのマーチャンダイジング・マネージャーとして活躍。その後、米国M.B.A.留学を経て、ボストン・コンサルティング・グループにてコンサルタントとして様々なプロジェクトに参画。2010年にはギルト・シティのゼネラル・マネージャーとして日本での同ビジネスの立ち上げに成功。2011年より現職。慶応義塾大学学士号。ペンシルバニア大学ウォートン・スクールM.B.A.

・リリース情報
2014/6/4 ミニAL
わたしが愛すべきわたしへ』/蟲ふるう夜に(公式サイトはこちら

・早川大地

アーティスト、音楽プロデューサーとして東京エスムジカ、Sweet Vacation等で活動。スイミー/Every Little Thing、Sunshine Girl/中島愛など、作曲家としてもヒット曲を持つ。近年は音楽アプリ、音楽レッスンサービスmuty、など新メディアと音楽の関わるコンテンツに力を入れている。ライフハッカー[日本版]編集委員。大学等レクチャー・TV雑誌などメディア出演多数。

この記事をかいた人: 常山 剛

フリーランスコピーライター・Web編集者。「GIZMODO JAPAN」ライターを経て、「ライフハッカー[日本版]」「roomie」の編集長を歴任。現在は、ライティング、コピーワークの他、Webメディアスタートアップの経験を生かして、新規メディア立ち上げのコンサルティングなどを行っています。個人ブログとして「猫ジャーナル」も。