アノオト

2014.07.21

アナログとデジタルの間に潜む、ある、音の怖い話

140721horror

夏ですね。夏といえば怪談、ということで、そんな怖い話をひとつ。

音にまつわる怖い話といえば、80年代には「この曲のバックにかすかに叫び声が入ってるのが聞こえる」、とか「せんぱい…」っていう声が聞こえる、みたいな話がけっこうあった。最近の曲でもあるようだけど、昔ほどは話題になってはいないのではないか。

当然ながら、当時はすべてがアナログで、録音済みの音にも、いろいろなノイズやら変動要素が入り込む余地があったから、今思えば、そういう「異音」がいくらあっても不思議はないという感じはする。

今や、音の入口から出口まですべてがデジタルなので、そういった「得体の知れないもの」の入り込む余地はずいぶん少なくなったのだろう。入り込む余地がどれほどかはさておいても、音に限らず、写真も素人がいくらでも加工できる時代だし、怪しい現象もGoogle先生に聞けばすぐに謎が解けてしまう。昔ほど「怖い話」がもてはやされなくなってきたのは、そういう事情があるからだろう。

さて、なぜそんなことを急に思い出したのかといえば、昔に録音したテープなんかを整理していたからだ。

そろそろテープデッキも調子が悪くなってきたので、テープを処分することにしたのだが、やはり必要なものはとっておきたい、ということで、きちんとデジタル化して保存することにしたのだ。頭から再生して聞きながら録音するわけだが、テープの音を聞くにつけ、ヒスノイズとか音のヨレなどには、何か霊的な何かが潜む余地があるような気がしてならない。もちろん電気工学的に、必然的に入り込んだのは分かっているが、デジタルのパキッとした世界に慣れた耳にはどうにも不気味に聞こえる。

そんなことを考えつつ、テープ片面につき1個のMP3ファイルを生成する作業を始めて早半日。最初こそいちいち聞いて懐かしんだりしていたが、すぐにそれにも飽きてテープ再生とMP3録音をセットしたら放置して、マンガを読んだり部屋を掃除したり。そうこうしてるうちにディスクにはMP3ファイルがどんどん増えていく。

自分は、日付順に並び替えてファイルを探すことが多く、デフォルトのソート順はだいたい日付順(降順)になっているので、新しく録音したものは上に来る。デジタル化されたデータは、もともとの録音日がどうであるとかは知る由もなく、ファイル化された時刻で無機質に並べられていく。コンピュータというのは実に律儀だ。

律儀なコンピュータの処理で、MP3ファイルが1個増えるたびに、それまでに保存されたMP3ファイルは律儀に下へ押し流されていく。…はずだった。が、たった今できたMP3ファイルはなぜか一番上に来ず、一番下に配置された。ここまで新しいファイルは全部上に来ていたはずだ。なぜこのファイルだけ下に?

変だ、と思って日付を見ると、なぜかすごく古い日付になっている。

前にもそういうことはあった。ファイルの日付情報が壊れるとこうなる。壊れる理由はいろいろだが、日付情報が壊れると内部的に日付の値が0になって、結果的にコンピュータの基準日時=すごく古い日時が表示されてしまう、ということだったと思う。その日付ってたしかシステムごとに決まっているはず…と思って調べてみた。

システム時刻-Wikipedia

だが、どうもこれらのどれとも違う。1988年3月21日。

半端だ。基準にするには半端すぎる。ということは何だろう? オーディオのバイナリデータがアレやコレやでメタ情報領域に? いや、難しいことはさておき、単にハードディスクが壊れた? それはそれでピンチだぞ? と思ってひとまずオーディオエディタでMP3ファイルを開いてみる。そしてそこに録音されていた音を聞いて思い出した。

1988年3月21日。

それは…僕の嫌いな、嫌いだから死んでほしいと思っていた、そして、実際にこのテープに僕の嫌いなダミ声をこれでもかと吹き込んだ後、謎の事故で死んでしまった、あのクラスメート…の命日。

それを思い出した途端怖くなって再生を止めようとした。が、なぜか止めることができない。停止ボタンを何度押しても、止まらない。おかしい。デジタルだろ。命令したとおりに動くんだろ。焦る僕の気持ちをよそに、MP3の再生は進む。そして、聞こえてきたのは…!!

…という若干今どき風味を盛り込んだ怖い話を思いついたんですが、どうですか皆さん?
※もちろんフィクションです

Photo by FrogArt

この記事をかいた人: 除村武志

慶応義塾大学理工学研究科計測工学専攻修了。8bitミュージックユニット「YMCK」の作詞・作曲・サウンドプロデュース担当として米国・スウェーデン・オランダ・フランス・タイ・韓国・台湾など各国で国際的なフェスやイベントに出演。iOS/MacOSアプリ開発も行い、MacOS用AudioUnitプラグイン「Magical 8bit Plug」は世界中で愛用されているほか、iOS楽器アプリ「YMCK Player」もライブパフォーマンス用ツールとして評価が高い。